NGD

かつてゲーオタだったかもしれない人の日記

探し屋トーコ

ちょっと前にダウンロードしてプレイしていたフリゲのADV「探し屋トーコ」が終わったので例によって紹介&感想でも。
実にいいものを見せてもらいました。

今後もし他人にオススメのフリゲを勧める機会があればラインナップの一つに入れておくことは間違いないです。いや、仮に3本挙げろといわれてそのうちの1本に入れても惜しくないとさえ感じています。それくらい印象に残った作品だったと思います。

とはいうもののゲーム的な意味で特筆すべき点は一見なく、正直ADVというよりはノベルゲーのほうが適切な気もします。

となるとまず評価の基準となるのはそのストーリーでしょう。

ストーリーの導入部を大まかに説明しますと、探偵に憧れる「坂崎慎吾」という学生が「間宮桃子」という探偵の事務所で働くようになるところから始まります。坂崎は推理小説のような華麗な推理で犯人を追い詰めていく探偵を夢見て入所したものの、実際に桃子(トーコ)のもとにやってくる依頼は人探しや素行調査といった現実的なものばかり。

大体こんな感じです。
ストーリーはオムニバス形式ですが、面白いのは探偵と言いましても殺人事件に巻き込まれて推理でトリックを暴き事件を解決する、いわゆるミステリー小説や漫画の探偵ではない点です。
トーコの探偵としての仕事は依頼人の依頼を受けて家出した家族や無くした物の捜索、浮気相手の調査などを行うことです。つまり現実に存在する探偵や興信所の仕事そのものです。

仕事ですので基本的にお金が第一です。逆に言えばお金にならないことはやりませんし、ましてやわざわざ事件に首を突っ込んで解決の手助けをするなんてもってのほかです。実際殺人事件に出くわしたらさっさと警察に任せて帰るというくらいです。依頼人のプライベートにも干渉しませんし、例えば調査の結果によって家族が離婚したりスキャンダルに巻き込まれても知ったこっちゃないという、シビアですがある意味現実的なスタンスです。

こういったトーコの姿勢と実際の探偵の仕事に触れるなかで慎吾がどう変化していくかが主題の一つであるのは間違いないですが、慎吾だけではなくトーコや周りの人間もどう変わっていくかもまた大きな見所でしょう。
扱われる題材は児童虐待、少年犯罪、復讐など重いものが多いだけでなく、前述のようにリアル路線なので事件解決でめでたしめでたしなんて結果は皆無です。しかしながらそんな中でも家族の絆や将来の夢について丁寧に描かれるシーンも多々あり、いろいろと考えさせられます。

この辺りのところは人によって受け取り方も様々で、なぜにゲームでこんなやたら現実を意識させられなくてはいけないのだとか、暗い気持ちにさせられなくてはいけないのだとか思われても仕方ないと思います。実際数年前にプレイしていたら自分の環境や将来と照らし合わせて最後までプレイできなかったかもしれません。今は今で作中の親に感情移入しすぎて涙が出てきたんですが。



さてストーリーの内容についてはいろいろと考えさせてくれ、これはこれでもっと語りたくなるのですが、そこのところは個々人の受け取り方に委ねるとしてこれ以上はあまり書きません。

それよりも私が特筆すべきと感じたのはストーリーの構成といいますか見せ方です。



この作品はオムニバス形式の物語となっているのは書きましたが、実際にはタイムラインに沿って複数の人物の視点から描かれる形式となっております。基本的にはトーコと慎吾がメインですが、話によってはそれ以外の人物の視点から描かれることもあります。

この手法は複数の視点から描かれることによって同じ出来事や人物でも違った側面を見ることができ、物語に厚みが出るのが特徴です。一般的に名作と評される作品でも時々見かける手法で、もちろんこれも評価の一端ではあるのですが、それ自体を殊更評価しているわけではありません。

重要なのはこの手法によってあらゆる点で最初から最後まで「対立・対比」を描いているという部分です。それは特に主役であるトーコと慎吾2人の関係性において現れています。

理想⇔現実
慎吾はミステリー小説のように華麗な推理で事件を解決するという理想を探偵という職業に抱いていますが、トーコは探偵はあくまで金を稼ぐ手段として現実的に割り切っています。

若者⇔大人
失敗を恐れない若者は夢を持つことが大事だと叫びます。それに対して大人は夢を捨てさせるのが大人の仕事だと諭します。

新米⇔ベテラン
同じような依頼の内容でも依頼人の信用を得るのに数日かかってしまった慎吾に対し、トーコは依頼の詳細を聞く段階での些細な会話から探偵としての能力を見せ信用を得ます。同じように張り込みや盗聴などの探偵としての基本的な能力の面でも新米とベテランの差がところどころで描写されます。

几帳面⇔ズボラ
一人暮らしで料理や掃除もお手の物の慎吾に対して、トーコはといえば女を感じさせないグータラを絵に描いたような生活ぶりです。

代表的なのはこういったところですが、それ以外にも慎吾とトーコの対立・対比構造が至るところで描写されます。もちろんただ単に対立を描くだけでなく、それを受けて両者の在り方がどう変化していくのかがストーリーとあわせて見所です。また時にはここに他の人物の視点も加わるようになりまして、そうなるとこの対立・対比構造にも慎吾とトーコだけでは起こりえない関係性が描かれるのです。例えば探偵⇔犯人のように。


そしてその慎吾とトーコの「対立・対比」の関係性を最も如実に表現しているのがゲームの進め方そのものでしょう。



これは実際にゲームを進める上での捜査のメイン画面ですが、システム自体は何一つ特筆するべきことの無いコマンド選択式ADVです。強調しますが本当にごくごく普通の古臭いADVです。ポイントはシステムではなく、これがトーコパートでの画面になるという点で先の画像でいうトーコの視点を選ぶとこういう進め方になるのです。

では慎吾や他の人物を選んだときはと言いますと、ただひたすら文章が流れていくのでそれを読んでいくだけです。途中選択肢なども一切ありませんので、プレイヤーのできることはマウスを左クリックしてページを送るか右クリックでセーブ画面を出すかだけです。ノベルゲーといいますかノベルそのものです。

このシステム自体の是非はさしたる問題ではありません。重要なのはトーコにだけ捜査パートが存在している意味です。逆に考えれば他の人物はともかくとして、もう一人の主役である慎吾に用意されていないのは何故なのでしょうか。

理由は2人の関係性を考えれば簡単です。
トーコは探偵を仕事としていますが、慎吾はまだ探偵に憧れてバイトをしている助手です。
すなわちこのトーコだけに与えられた特権、捜査パートそのものが探偵であることの証なのです。

セリフやゲーム内の行動でお互いの関係性や立場を描写するのは当たり前ですが、それを何の変哲もないシステム一つであっさりと表現してしまうとは純粋にすごいと思いました。

これらあらゆる面における対立構造の描き方こそが今作をプレイしていて私が最も感嘆した部分です。形態こそフリゲですが、この描き方はプロのそれに値する水準だと思います。



言いたいことは大体こんなところです。ちなみにクリアまでは約10時間、読んでいるだけの時間も多いのでボリュームはこんなものでしょう。

もちろんグラフィックがしょぼいとか、捜査パートで意図的な時間つぶしをしないと進めない点とか、客観的に見ればマイナスにしか見えない部分もいくつかあります。

しかしそんなのをいくつ羅列したところで私の中で評価が下がることは1ミクロンもありやしません。プラスにもなりませんけど。

ストーリーの内容が人を選ぶのは確かでしょうが、プレイするのは非常に簡単なだけにできるだけ多くの人に触れてもらいたい、久しぶりに心の底からそう思わせてくれた作品です。

という訳で以上フリゲADV「探し屋トーコ」の紹介&感想でした。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバックURLはこちら
http://blog01.blog31.fc2.com/tb.php/1377-a1282a6e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad